補習のお時間 |
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五月ウサギ:お,お店からモカの珈琲豆がぜんぶ無くなってるんだけど,どうなってるの!? ル・モンテズ:すまん,さっきワシがムギチョコかと思って食べちゃった ふつう一口めで気付くわよ! ああ〜どうしよう(がっくり) モン:おおすまない,五月殿がそんなに落ち込むと思ってなかったんぢゃ(汗) 五月:何よ〜,次の入荷は再来週なのよ.どーしてくれるのよ〜! モン:ここは得意の物真似で勘弁してくれ.とっておきのがあるんぢゃ 五月:本当にしょ〜がないわねー,似てたらね モン:自信があるぞ(こほん)「こんにちはー,第5代執権・北条時頼で〜す」 五月:似てるかどうかわっかんないわよ! ああ〜もう〜(へなへな) 近親調って結局どこなのさモン:うーん,やっぱりモカは美味いのう 五月:まさかお兄ちゃんが床下に珈琲豆5kgも隠してたとは知らなかったわよ モン:三月殿は穴を掘って大事なものを埋めておく習性があるからのう(ずずず) 五月:犬ですか.ところで今回のお兄ちゃんの話,文字だけで図も例題も一切なしってどういうこと!? モン:まあまあ,三月殿もちょっとお疲れ気味なのぢゃ.さっきのお詫びも兼ねて,ワシが完璧にフォローするから安心せい 五月:じゃあまず,転調がしやすい「近い調」ってどこなのか,わかりやすく教えてよ.音がかぶってるとかト長調がどうとか言われてもよくわからなくて モン:むー? よし,ではこれを見てごらん.たびたび出て来たものじゃが 五月:えーと,ハ長調で使う和音だったわね.これがどうしたの? モン:実はここに,ハ長調の「近親調」の主和音は,すべて揃っておる! C-Dur: II度調=d-moll(♭1つ) III度調=e-moll(#1つ) IV度調=F-Dur(♭1つ) V度調=G-Dur(#1つ) VI度調=a-moll(調号なし)......ハ長調の平行調 五月:え,ええーーっ!? II度調とかがぜんぶ<近親調>だったの?! モン:そうだ.三月殿は「属調,下属調とその平行調」と言ったが,そんな難しい言い方をせずとも<近親調>がどこだったかはすぐわかるってことぢゃよ 五月:これってひょっとして,このあいだの<借用和音>であっさり転調できちゃうんじゃ モン:もちろんぢゃ.だからとても「近い」調なんだよ.シャープやフラットが1つ増える/減る調,という風に覚えてもいいが,こうやって覚えておくといくぶん実践的だと思うぞ 五月:逆に言うと,近親調って,<部分転調>で気軽に使えちゃうくらい近いところにあるってことなのね. モン:そうだね,無論やり方によっては「あっ転調した!」という印象を与えることも可能だよ.使い方次第だが,とにかく扱いやすい位置にあるのがこれら近親調なのぢゃ.ちょっとだけ例を示そうか ♪例題(すべてC-Dur) モン:ぱぱっと書いた簡単な例題だよ.ちょっと専門用語を使っちゃうと,前半が<T-S-D-T>型,後半が<T-D-T>型の極めてオーソドックスなカデンツ(終止形)じゃな.この例題を後半(二重線以降)でちょっと転調させてみるぞい ♪例題(後半がG-Dur) 五月:えっ,確かに変わったけど,転調したってほとんどわかんないかも モン:何の仕掛けもなく,そのままつないだだけじゃが,非常に自然に調を転じることができたね.さっきのと聴き比べれば分かるけれど,何も言われなければ気付かないくらいだと思うよ.これが<近い調への転調>の特徴のひとつだ.転調元と転調先とで,共通している音がすごく多いので,こうなるのだね 短調......!モン:さあ,このあたりで三月殿が「言い残したこと」をフォローしていこう.短調のことじゃよ 五月:そ,そういえばぜんぜん出て来なかったわね モン:うん,基本的に長調と説明がかぶる部分も多いけれど,特殊ルールもあるのぢゃ.とりあえずこれを見ておくれ モン:イ短調(a-moll)だ.主音はラで,#♭は無し.ハ長調のVI度和音を主和音と見なしただけじゃ 五月:ちょっと平行移動したのね.だから「平行調」なのかー.和音もぜんぶ同じ(......おや?) モン:さっきの例題を,このa-mollへ転調(?)させてみようか ♪例題(後半がa-moll) 五月:すごく自然につながってるけど,しっかり短調になるのね モン:うむ,平行調は和音もほぼ共通なので,あやふやのまま調を移っていることすらあるね.a-mollに移ったことをはっきり示したい時は,V7→Iで《調の宣言》を行えばいいのぢゃ.さあついでに「同名調」のハ短調(c-moll)も見ておこう.♭3つぢゃ.グリーンで示した音がことごとくフラットしておるぞ ♪例題(後半がc-moll) 五月:あ,今度は転調してるっぽいかも モン:厳密には転調していると言ってよいかどうかわからん.近すぎるからね(笑).ただ長調から短調に移っているので,そこで「なにか変わったぞ」という印象が生まれるのじゃよ.これを<陰転>という. 五月:へえー,いつでも使っていいの? モン:好きな時に<陰転>してよいよ.ただし<陽転>(短調→長調)の場合は,主和音のところで行うことが多い.スムーズにつながるのじゃ 五月:ねえ伯爵,ひとつ聞いていい? さっきからV度和音の王妃さまのところに,何かついてない? モン:よく気がついたな五月殿! それが短調の特殊ルールなのじゃ 強進行の正体モン:もう一度a-mollを見てみよう.V度和音のところにシャープがついてるね 五月:ソがソ#に変わってるわ.V7も.どうしてなの? モン:これには深い理由があるのじゃ.<強進行>って覚えてるかい 五月:えーと,えーと,恐妻進行? モン:そう,V7→I度と,ブルー入った王妃を安心させに王様が飛んでくるあの進行ぢゃ.ところで,ハ長調(C-Dur)のV7は何の音からできていたかな 五月:うーんと,ソ,シ,レ,ファの4つね モン:ソが「根音(ルート)」だったね.ソシレの和音自体は,メジャーの明るい響きのする「長和音」だった.ソとシのあいだが長3度(長調の3度),ソとレのあいだが5度だね 五月:は,はい,なんとかついていってます モン:それで,これにファが乗っかることで何が変わるかというと,......五月殿,シとファのあいだの間隔は何度だい? 五月:シ,シドレミファ......5度? モン:惜しいけれどハズレだ.シ-ファ間は(シ-ド,ミ-ファという)半音で隣り合う部分を2度も通過してるからね.ちょっとそこのピアノを弾いて確認してごらん 五月:はーい ♪シ-ファ 五月:5度のひびきじゃないわ! モン:そうだね,濁っている.5度のひびきはこっちぢゃ ♪シ-ファ# モン:つまりシとファの間隔は,完全5度に半音だけ足りないのじゃ.これを「減5度」(げんごど)という.そしてこの「減5度」こそが,王妃の憂鬱の正体だったのじゃ 五月:な,なんだってーーー!! どういうことだキバヤシ モン:誰がキバヤシやねん.V7の和音に含まれたこの減5度の不安な響きが,次に解決の和音(I度)を呼び込むのだよ.これが強進行(ドミナントモーション)のエッセンス部分なのだ. 五月:そうだったのかー モン:ぶっちゃけて言えば,この減5度を含んでいれば,他の和音でもV7の代わりが務まるということでもあるよ.まあでもこの<代替和音>の話は複雑なので,ここでは省略しよう.興味があったらいろいろ調べてみるといいぞ 短調の王妃は胸にシャープを飾るモン:さて五月殿,短調に話を戻そう.a-mollのV7は何で出来ていたかな? 五月:ミ,ソ#,シ,レの4つ,かな モン:そうだね.短調のV度和音で#がついてしまう理由は,もうわかったんぢゃないかい 五月:ソ#とレで,あえて「減5度」を作り出すため,ってこと? モン:そのとおりぢゃ.減5度を作り,次の強進行を準備するためなのだよ.この「短調ではV度(およびV7)の第3音が半音上がる」というのは,短調を扱うにあたって知らないとまずいレベルの知識なので,今日この場でしっかりと胸に刻み込んでおいてほしい 五月:あのー,うっかりそのまま,ミソシレーって鳴らしちゃったらどうなるの? モン:それは「マイナーセブンスコード」といって,使い方が全く違ってきちゃうのぢゃ.ミソシだけだとマイナーの和音じゃろう? これにレが乗っかると(※ソ-レ間は完全5度),ちょっと暗さがやわらぐのじゃな.だからこの場合,使い方は基本的にミソシと同じで,少しやわらかい響きにしたいときに多く用いられるよ 五月:でも,でも,半音上がると,長調の王妃さまと同じ和音になっちゃわない? モン:そうだよ(あっさり).a-mollの場合は,同名調のA-DurのV度和音と同じになるね 五月:それってどうなっちゃうの? モン:次にラドミが鳴ればa-moll確定,ラド#ミが鳴ればA-Durの《調の宣言》となるのさ.密かにどちらへ解決させてもいいということに気がついたかい.本来フラット3つ分も離れている同名調が<近い>のは,もちろん主音が同じというのもあるけど,このV7を共有しているという理由もあるのぢゃよ 五月:そうだったんだー モン:さて,今日は第1部の最後だったし,長くなったね.この辺りにしよう.今日は近親調はすぐ見つかるということと,短調のV度にシャープ(ナチュラル)が必要なこと,この二つを覚えていたらいいよ.ところで五月殿,ムギチョコのおかわりもう無いのかい.すっかり平らげてしまって 五月:......伯爵,ちょっと,いいですか?(ゴゴゴゴゴゴ......) |