1.4 転調先の選択と主調復帰について


一般的に,距離の近い調ほど転調は易しく,遠いほど難しくなっています.まずは調のあいだの<距離感>についてお話します.

 距離感1:調号の増減


たとえばC-Dur(ハ長調)の音階は,ドレミファソラシの7つの音でできています(調号なし).属調(V度調)であるG-Durの音階は,ソラシドレミファ#の7つの音で,調号はシャープひとつです.

よく見ますと,C-DurとG-Durという2つの音階は,ド,レ,ミ,ソ,ラ,シの6つの音が共通で,つまり音がかぶりまくっております

ぱっと調を飛び移った時にほとんど違和感がありません.これが調と調のあいだの「近さ」の尺度となります.

ということで,C-Durのお隣の調は,シャープ1つ,あるいはフラット1つの調ということになります.具体的には,

G-Dur(ト長調),e-moll(ホ短調)......#1つ
F-Dur(ヘ長調),d-moll(ニ短調)......♭1つ

この4つですね.これらをC-Durの<近親調>と言います.定義は「属調,下属調およびそれらの平行調」ということになります.

【平行調】

この距離感から見た場合,C-Durに最も近い調は,シャープやフラットの増減のないa-moll(イ短調)になります.a-mollの音階は「ラシドレミファソラ」で,C-Durとは全ての音が共通です.この関係を<平行調>と呼びます.音階を平行移動している訳ですね.

 距離感2:音程の遠近


クラシックではあまり好まれませんが,音程の近さと調そのものの近さを絡めて考えることもあります.

例えばドとド#は,音程としては隣り合っていますが(とても近い),そこから音階を作ると#7つ(♭5つ)という距離が発生してしまいまして,先ほどの考え方からすれば非常に遠い調となります.

この「近くて遠い調」への転調は注意が必要になる......ところなのですが,同じフレーズを繰り返す場合には,割とあっさり飛ぶことができます.
ポップスでは頻出する形ですので,これについては第2部で具体例を挙げて説明したいと思います.

【同名調】

この距離感から見た場合にC-Durから最も近い調は,c-moll(ハ短調)となります.主音はドのまま動きません.主音を共有している二つの調は<同名調>と呼ばれます.同じ名前,覚えやすいですね.

c-mollは♭3つですが,主音が同じであるという性質を利用して,C-Durとはするすると互いを行き来することも可能です(陰転/陽転).

 転調先の選択


転調先には<近親調>を選ぶのが無難です.とりわけ最もよく使うことになるのは属調(V度調)です.

その理由は端的に,次に述べる<復調>つまり主調への復帰が簡単だからでして,従って,頻繁に転調が行われる楽曲であっても,中間部のおしまいには(元の調の)V度調に戻っておく→主調へ復帰,ということが多くなります.

ここまでが基本ラインです.

しかしながら,現代では曲の書式がとても複雑化し,また自由になっておりますので,普通に近親調へ飛ぶだけではつまらないと感じる方もいらっしゃるでしょう.じゃあ,もっと遠くへ飛んでしまったらいいのです.

本格転調で大事なのは,助走して力をためること,踏切り,そして着地です.そしてこの《転調作法》が目指しているのは,どこの調へでも好きに飛べるようにしてしまおうということなのです.

 主調への復帰


最後に主調復帰についてですが,別にしなくてもいいです(笑).投げっぱなしで曲を終えても構いません.

ただしクラシカルな曲を書こうとする場合は,最後は元の調に帰って来るのが伝統になっていたりもしますので,曲を書いているあいだ「主調はどこだったか」というのを,ちょっと頭の片隅に置いておいて頂きたいと思います.

この主調復帰が絡むと,転調先の選択に少し制約が生じます.つまりあまり妙なところへ飛ぶと,なかなか帰って来られなくなってしまうのです.

というわけで,最初から主調復帰をにらみつつ転調先を選ぶという,曲全体のプランニングが大切になってきます.

もちろん曲は転調のために書かれるものではありません.そうであってはいけません.転調の計画は,曲の展開の計画と同時平行して行われることになります.

***

以上で一応,第1部終了とさせて頂きたいと思います.

第1部では転調の大まかな考え方,そしてそのために必要となるであろう予備知識についてお話ししてきました.しかし少々言い残したこともございますので,今回はちょっとまた伯爵の方から<重要な補習>があると思います.

それではまた,第2部でお会いしましょう.

(三月ウサギ)


今日のまとめ
1.近い調ほど転調しやすい.距離は調号の増減が目安となる
2.主調へ復帰する場合は,いちどV度調へ戻っておけばスムーズ


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