1.3 借用和音と部分転調 |
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他の調に移った訳ではないのに,その調には無いはずの音が現れることがあります.たとえばハ長調の曲にド#の音が出てきたら,おやっという印象を与えます.本格的な転調のほかに,部分的に転調することがあるのです. 部分転調の例次の例を聴いてみて下さい. ブラームス交響曲第3番 第2楽章冒頭 前回ご紹介した例題の続きの部分です.10小節目までの譜面も示しておきます. この第2楽章はC-Dur(ハ長調)で書かれていました.ただし前回同様,クラリネットの楽譜がin Bbで書かれている点には注意してください.またヴィオラはハ音記号となっています(ドが第3線). |
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さあ,よーく聴いてみましょう.クラリネットが奏でているメロディは4度繰り返されますが,3回目だけ少し音域が上がる(9-12小節目あたり)のが分かるでしょうか.そしてその直前の箇所は,なにやらちょっとあやしい(?)動きをしていますね. 6小節目(下段先頭)でクラリネットにfis(ファ#)の音が出現します.それはすぐにナチュラルによってキャンセルされますが次の小節で再び現れ,また8小節目にはファゴット2ndにさらにdis(レ#)が出てきたのが確認できます.いずれもC-Durの音階にない音です. しかしここでは音階のセットを切り替えるような本格的な転調が行われている訳ではありません. 7-8小節目の和声進行は,こうなっていました(便宜上コード表記します). D7 G Am D7 / B Em Am7 D7 / G... 7小節目の2拍目までで既にD7→Gという強進行が示され,G-Dur(ト長調)に転調したかのように振る舞っています(※D7とGはそれぞれG-DurのV7と主和音に相当する).8小節目の4拍目(D7)から9小節目の頭(G)にかけてもそうですね.つまりここではG-Durの《調の宣言》が行われています. けれども,この第2楽章をもっと大きな視点から見た場合,この冒頭の20数小節間はずっとC-Dur上で動いているのです(主音はCのまま動かない).したがって,この7-8小節目の転調は「一時的なもの」と見なされます.これが部分転調(臨時転調)と呼ばれるものなのです. 引用元(スコア): credit: "J. Brahms, IIIe Symphonie op.90 Fa Majeur", Heugel et Cie, Paris, 1974, p.46. 借用和音部分転調において大活躍するのが,<借用和音>です.他の調から借りてくる和音,というような意味なのですが,もっとも頻繁に使用されるのはV7であり,とりわけ以下の5つです. (C-Dur:) 丸暗記でも結構ですが,これらは一応,「(C-Durの)○度和音へ強進行するV7」となっています.要するに「○度調のV7」と一致していますので,どちらか覚えやすい方で覚えて下さい. (ちなみにVII度はディミニッシュ(減和音)であり,これを主和音とする長調/短調は存在しません) これらの借用和音を鳴らしたら,原則として強進行(4度上行)し,解決の和音を鳴らして下さい. ここで先ほどのブラームスの曲を,もう一度参照してみましょう(7-8小節目). D7 G Am D7 / B Em Am7 D7 / G... (ファ#が出現した)D7-Gの部分は, 「v:V7 - V」 (ごどちょうG-Durのごどせぶんす から ごど へ) (さらにレ#が出現した)B(h-dur)-Emの部分は, 「iii:V - III」 (さんどちょうe-mollのごど から さんど へ)※7th抜き とそれぞれ解釈できることがわかります.書き直すと, v:V7 - V - VI - v:V7 / iii:V - III - VI7 - v:V7 / V... 上の5つの借用和音を覚えるだけで,スコアを読んでいる最中に不意のシャープやフラットで泣きそうになる機会が半減するでしょう. 変化和音などついでながら,最後に他の変わった和音をチラ見せだけしておきたいと思います. C-Dur(ハ長調)の同名調であるc-moll(ハ短調)からは,ラ♭を含む和音がよく借り出されます. また長調の明るい響きをもったI, IV, V度の和音は,それぞれ第5音に#がついてオグメントコードとなることがあります. |
そして,ナポリ6度やドイツ6度など,6thコード系の和音にも,本来その調にないはずの音(シャープ/フラット)が顔を出すことがあります. # 下段の増6度系の和音は,イタリア6度を基本に # 増4度(fis)追加でフランス6度,完全5度(g)追加でドイツ6度 # 根音のラ♭はオプション.これが追加されるとドミナントへ進行 他にもいろいろあると思いますけれど,あまり転調のことと関係なくなってしまいますので(笑),今日はこのあたりで.
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