1.2 どこで転調するか |
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結論から行きますと,どこで転調してもいいです.自由です.ただ目安となるポイントはやはりありますので,今日はそのことについてお話します. 4小節単位の進行音楽は基本的に4小節単位で進行していきます.クラシックでは省略や保留の関係でこれが崩れることも多々ありますが,ポップスの方ではかなり遵守されているルールだと思います.また,これは4拍子の曲に限ったことではありません.何拍子の曲であろうと同じです.したがって一般的には,8小節,12小節,16小節といった4の倍数のところで,ひとつの音楽的なまとまり(フレーズ)が形成されやすいということになります.次の例を聴いてみてください. ブラームス交響曲第3番 第3楽章冒頭 これはゆったりした3拍子の曲ですが,12小節×2回という構成になっているのがわかりますでしょうか.「いち,2,3,にい,2,3」と指折り数えて確認してみてください. ハ短調(c-moll)で,12小節目にしっかりV7,24小節目に主和音(I)が鳴るという,とても人を安心させる構造になっています.しかもメロディラインが,V7のところで「ソ」,そしてIのところで「ド」を踏んでいますから,ますます安心です. この12小節目,V度和音の持っている「あとに続く感じ」が半終止, そして24小節目,V7-Iとつないだ時の「終わったーという感じ」が完全終止です. この終止形は一般的にフレーズの最後に持ってこられますが,ときどき前後にずれ込むことがあります.その例を示しておきましょう. ブラームス交響曲第3番 第2楽章冒頭 |
冒頭の5小節だけですが,譜面も示しておきます(木管部分のみ).楽器は上からフルート,オーボエ,クラリネット(<in Bbで書かれているので注意),ファゴット,ホルンです. クラリネットはいわゆる「移調楽器」で,ドと書かれている音のところで実際にはシ♭が鳴るという不思議な現象が起こっていますが,解説は省略させて頂きます. 都合良くC-Durで書かれていたこの第2楽章ですが(笑),和声進行は冒頭より, (C-Dur:) I / IV-I-IV-V / I-V7 / I-V7 / I となっています.何度もよく聴いて,3-4小節目で既にV7-Iのパターンが入り,<調の宣言>が完了していることを確認してください.その後4小節目の後半(3,4拍目)では,もういちど念を押すようにV7が鳴らされて(弦楽器),次のフレーズの頭(5小節目)の I度和音へと解決していっているのです. クラシックではしばしば,ぴったりと終止感を出さず,このように半終止っぽく次々とつないで行くような書かれ方がなされます.このあたりが「この曲いつ終わるの?」とか「だんだん眠くなってきた」といった印象を与える原因なのかもしれません. 引用元(スコア): credit: "J. Brahms, IIIe Symphonie op.90 Fa Majeur", Heugel et Cie, Paris, 1974, p.46. ちなみにmp3は手で打ってます 転調のタイミングフレーズの切れ目が,転調のチャンスとなります.ポップスならAメロからBメロ,あるいはサビへ移る箇所,サビをリフレインする箇所.クラシックなら,第二主題の提示時,中間部等々,このあたりが狙い目です.音楽的に区切りがよいというのもありますが,終止形が入って調が確定するのが大きいのです. この時,転調のためだけに,フレーズと次のフレーズの間に何小節か挿入されることもあります.同じメロディの反復や,和声の反復進行により,「ひっぱってひっぱって」ぽーんと飛ぶ感じになります.ひっぱりすぎるとかっこ悪いんですけど(笑).このことは第2部でもう一度触れましょう. ところでフレーズの切れ目ということは,主和音(トニック),属和音(ドミナント)の近辺だということになります.これは大きな意味を持っています.後日また取り上げることになるでしょう. また,ソナタ形式の展開部など,頻繁に転調がなされる箇所もあります.<調の宣言>さえ毎回できていれば,2小節くらいで転調を繰り返しても特に構わない訳です.この場合はしかし,メロディラインが不自然にならないよう気をつけなくてはいけません.カラオケでキーを変更しながら歌っているような感じになってしまっては失敗です. そして最後に,「部分的な転調」というものが存在します.主音が動いたりする訳ではなく,個人的にはこれは転調に含めない方がわかりやすいと思っているので,この《転調作法》では取り扱いません.その代わり,次回はこの話題を扱って1回で片付けてしまうことにします(<しっかり取り扱ってるぢゃねーか).
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