1.1 転調は自由である


まずこれは最初に断っておかないといけないのですけれど,転調なんてしなくても,いい曲はいっぱいあるのです(笑).曲を書くにあたって大事なことは,他にもっといろいろあります.けれども,「何だか難しそうで」という理由でこれを避けるのは,ちょっともったいないことだと思うのですよ.転調を覚えると,それだけで大きな武器になりますし,作曲の幅も広がります.

転調は事実上,何をやってもよろしいということになっています.自由なのです.しかしそう言われるとどうしてよいのかわからなくて,かえって困ってしまいますね.だからこの《転調作法》では,どうやって転調したらいいのかというその基本的な振舞い方について,ちょっとした指標を示しておこうと思うのです.

いろいろなタイプの転調があります.あれ,いつのまに転調したの?みたいなごく自然なものから,おおっかっこいい!と思わせるもの,はたまたうわっそれはアリなの?みたいなきついものまで様々です.書き手の好みやその曲の雰囲気によって,これらを使い分けていくのですね.最近はパソコンという便利なものがありますから,みなさん曲を書いている間に転調したくなったら,シーケンサ上で音符をコピペしたり,トランスポーズ(移調)しちゃったりするでしょう(笑).それでいろいろ試してみて,ここへ飛ぶと不自然だなとか,ここなら何とかつながったかもとか,そんなことをしている方はいませんか.それはOKだとは思うのですけれど,ちゃんと狙って飛ぶ方法があるのですから,それを覚えておいたほうがずいぶんと楽ですし,自分の思い通りにできます.

今日は第1回ということで全体のイントロダクションを兼ねていますので,今後のおおまかな話の流れについて少し触れておきましょう.第1部では,曲全体を見渡した時に,どの箇所に転調を入れたらよいだろうか等,そうした大きなレベルでの話題を扱います.次の第2部では,和音のお話を絡めながら,具体的にどういうパターンで調を転じていくのかといった,割と細かなレベルでの転調テクニックについてご紹介したいと思います.そして第3部は,後日いつでも資料的な使い方ができる部分として,書いていきたいと思います.

 調の宣言

本格的なお話に入る前に,ちょっとだけ予備知識が必要です.まず全音階(diatonic scale)についてお話します.

全音階(ぜんおんかい)とは,平たく言えばふつうのドレミファソラシドのことです.何も難しいことはないんですけれど,敢えて小難しい名前がついている(笑)のは,他の特殊な音階,たとえば全音音階(ホールトーンスケール)や十二音技法の半音階などと区別するためなのです.

全音階で書かれた曲は,しっかりとした調性感を持ちます.言い換えると,どこが主音なのかがはっきりとしていて,例えばこれはハ長調(C-Dur)の曲だな,といったことがわかるのです.逆に全音音階や十二音技法などでは,主音というものが存在しませんので調性感もまた失われています.だから一般ウケは難し,いえ,とにかくですね,転調にとってこの調性感というのがとても大事なんです.なぜなら,「いまここの調にいる」「あれ,こっちの調に変わったぞ」という,そのギャップこそが転調の本質だからです.

従って,

転調するためには<調の宣言>が必要である

ということになります.方法は二つあります.

1.主和音から始める(※確実ではない)
2.終止形(V7-I等)を示す

主和音(トニック)あるいは「I度和音」は,ハ長調でいうドミソの和音(コードC)です.みなさんごく自然にやっていることかもしれませんが,とにかくこれを鳴らして調を確定しないと転調できません.転調元と転調先でそれぞれ宣言が必要です.

ただですねー,多くの曲は主和音から開始されていると思うのですが,それ以外の和音から曲(or フレーズ)を始めることもできますので,1の方法は確実という訳ではありません.そこでフォローが必要となります.終止形です.

「終止形」や和声進行のことについては,ここで詳しく説明する余裕がありませんけれど,一般的に最も確実なのは,完全終止(V7-I)のかたち(ドミナント→トニック,ハ長調ならG7-C)を示すことです.これで調が確定となり,安定した調性感が得られます.

思わず長くなりましたが,最初なので勘弁してください.今日はここまでにしたいと思います.次回からもっと短めで行きます(汗).具体例を示すちょっとした譜面やmidiファイルがあると随分わかりやすいはずなので,後日追加という形で入れていきたいと思います.


今日のまとめ
1.どういう風に転調してもよい.自由である
2.V7→I等で<調の宣言>を行う


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