音楽十二宮へのいざない――《転調作法》への序文 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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これから転調についてのお話をゆっくりしていこうと思います.必然的に全音階(diatonic scale:いわゆる普通の音階)で考えますが,1オクターブのなかに12の半音があり,それぞれを主音とする長音階,短音階があることになりますので,つまり,(古典以前およびストラヴィンスキー以降は別として)音楽の世界には24の調性が存在することになります.短音階はさらに三種類に分かれますが,それは今は脇に置きましょう. 転調は両刃の剣であって,楽曲に劇的効果を与えたり緊張感の増減をコントロールしたりする一方で,その無意味な乱用は,楽曲の構成そのものを台無しにしてしまう危険をも秘めています.しかしながら転調は,厳密な設計に基づいて用いられれば何ら恐ろしいものではないし,それほど難しいものでもないのです. 各調性には固有のニュアンスがあります.一般的にはシャープ系は硬質でヴィヴィッド,フラット系はしっとりと穏やかということになりますが,例外も多々あります.また,調号のないハ長調(C-Dur)が無色透明であるというわけでもありません.曲を書くにあたって,どの調性を主調に選ぶのか,転調先をいずれに設定するか,こうしたことは懸案でもあり,また楽しみごとでもあると思います. ここで仮にC-Durとa-mollの音階を同一とみなした場合,音楽の宇宙には12種類の音階が存在することになります.ところで,C-Durからシャープをひとつずつ増やして調整をシフトしていったときどこまで到達できるか,みなさんは考えてみたことがあるでしょうか.まず属調のG-Dur(#1つ)が現れ,以降D-Dur, A-Dur, E-Dur, H-Durと続きます.そしてFis-Dur(#6つ)を経てCis-Dur(#7つ)に到達したときに,これがDes-Dur(フラット5つ)の音階に一致してしまうことに気付かされます.これはCis(実音ド#)=Des(実音レ♭)という単純な理由によります. ここから更にシャープを増やしていこうとすると,次々とフラット系の調が現れます.As-Dur(b4つ), Es-Dur(b3), Bb-Dur(b2), F-Dur(b1),そして最後に,我々は出発点のC-Durに戻ってきてしまいます.このように12の音階はひとつの円環をなしています.疑問に思った方は,今度はC-Durからフラット方面へシフトしていって,やはり元の場所に戻ってきてしまうことを確認してみて下さい. 古典派の音楽家は,転調先を主に属調(V度調;C-Durの場合はG-Dur)等の近親調に限っていました.ロマン派の先駆をなしたベートーベンに至って,ひとつの楽曲中でも12の音階を転調によって自在に使う試みがなされます.Mikai氏の分析によれば,19世紀初頭にベートーベンが基軸に据えたのは,C-Dur, E-Dur, As-Durに見られる三角関係――これらは12音階の円環上で正三角形をなす――だったようです.また20世紀のジャズは,ディミニッシュコードの正方形(C, A, Fis, Es)を利用して三度での転調を繰り返し,C-Durから《最も遠い調》であるFis-Dur(#6つ)へさえ難なく転調する方法を見いだします.これら先達の編み出した技法を参考にしつつ,簡潔にですが,12種類の音階を自由に行き来してみようというのも,本稿の目論見のひとつです. 本編部分はこれから徐々に書かれますが,拙稿が,好きな曲のスコアを読んで分析しようとする方々,また転調を含んだ曲を書こうとする方々のガイドとして役立てば幸いです.怠惰な筆者がゆっくりと(おそらく10年ほどかけて)原稿を準備しているあいだに,真面目に音楽を学びたいと考える熱意ある読者の方には,以下に紹介するホームページを熟読なさることをお勧めしておきます.できれば鉛筆と五線紙,そして和音の奏でられる楽器を準備なさってから訪れるとよいでしょう. 作曲法サポートページ(一ノ瀬様) http://hp.vector.co.jp/authors/VA007711/ 音楽のからくり(Music Eye内,Mikai様) http://www.ne.jp/asahi/mikai/eye/index.html なお,これらのページの表記もドイツ音名となっていますので,最後に付録として,ドイツ音名その他の簡略なガイドをつけておきます. 1.ドイツ音名
(コード理論になじみのある方は,シがH,シbがBと表記される点に注意) (欧米人は音名と階名を厳密に区別せず,例えばin Fの楽器ではC=実音ファとなることがあるので,彼らと話をするときには少し注意) 2.長調/短調の表記 Dur(ドゥア):長調 moll(モル):短調 例) C-Dur(つぇーどぅあ)=ハ長調. Es-Dur(えすどぅあ)=変ホ長調. fis-moll(ふぃすもる)=嬰ヘ短調. (短調の場合,小文字表記となる) 3.和声と機能 I度(いちど):主和音,C-Durでは実音のドミソ.コード表記でC IV度(よんど):下属和音,ファラド.コードでF V度(ごど):属和音,ソシレ.コードでG V7(ごどせぶんす):属七和音,ソシレファ.コードでG7 など 短調の響きがする三和音は,しばしば小文字で表記される i度(いちど):短調の主和音,C-Dur/c-mollではドミbソ.コードでCm ii度(にど):C-Dur上でのレファラ.コードでDm iii度(さんど):C-Durでのミソシ.コードはEm vi度(ろくど):C-Durでラドミ.Am など T(とにっく):主和音のもつ終止機能 D(どみなんと):属和音の機能 S or SD(さぶどみなんと):下属和音の機能 4.各調整と調号の対応一覧表
日本語版はこちら
「6,2,3,5!トニイホロヘハ,ヘロホイニトハ!」と30回となえて覚えましょう. to be continued... (2005年5月) |